周りの人との関係
子どもをなくした親にとって、「子どもがなくなった」という事実を周囲に伝えること自体が、とても苦しい作業です。流産・死産の場合は、その事実自体を周りに話してもよいものなのか、周囲の反応も考えて悩む方が多いようです。
勇気を出して、我が子のことを伝えたとき、深い悲しみをいたわる暖かい言葉に慰められることもあれば、心無い言葉(多くは、グリーフについての無知から生じるのですが)に深く傷つけられることもあります。
特に、小さな赤ちゃんや子どもをなくすという出来事は、周囲にとっても予想外のショックな出来事であり、滅多に経験しない出来事でもあるので、周りの人もどのような言葉かけをしたら良いか戸惑い、間違った慰めの言葉をかけてしまうことが多いように思います。天使ママさんの体験談を読んでいると、こういった周囲からの対応に傷つき、他者への信頼感、ひいては世の中への信頼感を失い、深い孤独感の中、苦しい想いを抱えている方が少なくないと感じます。
なくなった我が子の存在を、周囲にどのように伝えるか。これは、多くの方が悩むテーマですが、一通りの答えがあるわけではなく、一人一人の置かれた状況に合わせて、その方が一生懸命考えて出された答えでよいのだと思います。また、同じ人でも、時間の経過と共に、考え方、周囲との関わり方は変化していくので、その時々の自分の気持ちを大切にしながら考え、行動することが大切なのだと思います。
私の場合、息子をなくしたという事実について何も触れずに、何もなかったように振る舞うことがどうしても苦痛で、かといって、息子のことを語ろうとすると泣けてきてしまうため、死別後半年近くはかなり引きこもった生活をしていました。
私にとって、息子の存在を周囲にどう伝えればよいのか、死別後の人間関係について悩み、考える過程は、自分は「亡くしたけれどもとても大切な家族」である息子の存在と共に生きていきたいのだと気づく過程でもありました。
息子との死別により、自分は大きな影響を受け、これまでの自分とは違う自分を再構築する必要がありました。そんな自分を、ありのままの自分を隠すことなく生きるためには、息子をなくしたという事実を周囲の人にきちんと語れるようになる必要がありました。
これは、周囲の人と新たな関係を作り直す必要があるということでした。
自分は、周囲との新たな関係を築く必要があるのだと気づくと、では具体的にどのような作業をしなくてはいけないのか、が見えてきます。
亡くした大切な人への想いを、自分は誰と分かち合いたいのか
周りの人に、どのような形で息子のことを伝えたいのか
自分にとって本当に大切な人とは誰なのか
自分に必要な人間関係とはどのようなものなのか etc.
実際に、息子をなくした悲しみや、この体験を経て自分の価値観が大きく変わったことなど、様々な自分の想いを自分の言葉できちんと語れるようになるためには、様々な試行錯誤と時間が必要でした。他者に想いをきちんと語るためには、自分の気持ちを客観的に捉える必要がありました。このために、様々な作業に取り組みました。
【自分の感情や思考を客観的に見つめ、整理していくために実際に行ったこと】
*自分の気持ちをノートに日記として記録する。
*ポコズママの会の掲示板(たくさんの当事者の方と交流ができます)に投稿したり、自分のブログを立ち上げ、気持ちを文章にして吐き出したり、経験者の方との交流をする。
*死別後のグリーフ(悲嘆)に関する書籍をたくさん読む。
*信頼できる友人や家族に、息子の話を少しずつ話し、聞いてもらう。
*SIDS家族の会(SIDSなどの病気や事故で赤ちゃんをなくした方や流産、死産を経験した方のための自助グループ)のお話会に参加する。
*家族の会で知り合った仲間と、1〜2ヶ月ごとにランチ会をして、様々な気持ちを言葉にして語り、聴き合う。
大切な人をなくすという出来事は、周囲の様々な人との人間関係に大きな影響を及ぼします。これまでの人間関係を失うこともありますが、これまで以上に深い豊かな人間関係を築くきっかけにもなりえる出来事なので、全てをマイナスに捉えるのではなく、「自分にとって本当に必要かつ大切な人間関係を作り直す機会なのだ」と捉えるとよいのかな、と感じます。
私にとって、周囲との関わり方・人間関係について考え、思考を深めていく作業にとても役に立ったのが、「対人関係療法」という精神療法(精神科臨床で使用されている治療法の1つ)の考え方です。
対人関係療法についてまとめてあるサイトです。
対人関係療法の考え方に基づいて、より良い夫婦・パートナー関係のあり方を考える本です。
グリーフのさなかでは、心のエネルギーが低下して、普段なら許容できるような些細な刺激でもイライラしやすくなります。地上のお子さんの育児にうまく対応できなくなることも多いと思います。この本は対人関係療法の考え方に基づいて、子育て中のイライラがどんな機序で生じ、どんな風に対応するとよいのかが、わかりやすく書かれている本です。
予想できない突然の死別は、トラウマとなり、PTSDを引き起こすことがあると考えられています。私はこの本を読んで、子どもとの死別後の様々な心の反応には、PTSDの要素も含まれる場合も多いのではないか、と感じ参考になりました。
「死別後の人間関係の悩み」の中身は様々ですが、このテーマへの対処法を考えるときに、その人が元々、健康的なコミュニケーション技術を身につけているかどうかは結構、大きなポイントとなる気がします。
私は元々、自己肯定感が低く、人間関係を上手く作れない、自分の気持ちをきちんと伝えることが苦手という課題を抱えていて、死別前からこの課題に取り組んでいるところでした。
この問題に対処するために役に立った考え方がいくつかあるのですが、そのうちの1つが、「アサーション」の考え方です。「アサーション」は英語で、相手も自分も大切にする、健康的な人間関係をつくるための、自己表現のあり方を指しています。
死別後に限らず、対人関係の悩みの多い方は一度、アサーション関連の書籍を読まれると、きっと役に立つのではと思います。私が読んで、読みやすく、役に立った本は、日本のアサーション・トレーニングの第一人者である平木典子先生の著書です。
0コメント